ある大人の生徒さんとシューベルト

今日はある大人の生徒さん(Mちゃん)と、シューベルトの即興曲の話です。

Mちゃんは、営業職としてお仕事もバリバリされながら、ピアノも頑張っておられます。もううちに通ってこられて、何年にもなります。

教室のイベントにも積極的に出演され、お手伝いもしてくれる、とても頼りになる生徒さんです。

そのMちゃんが最近取り組んでいる曲が、シューベルトの即興曲 op.90-3

フジコヘミングさんのコンサートで聴いて、とても感動したとかで、以前から「いつか弾いてみたい」と言ってました。

私も大好きな曲です。

変ト長調(♭6個)で、譜読みがめちゃ難しいのですが、Mちゃんは少しずつ読み進めていってます。

シューベルト楽譜

ここからは私の話になります。

今から8年前に父が亡くなりました。
それまで、のほほんと生きてきた私には、それはそれは衝撃的な出来事で、平静を装ってはいましたが、精神的にはしんどい毎日を送っていました。

当時は会社員だったので、とても忙しく毎日を送っていました。その忙しさに助けられたかなぁと、当時を振り返ります。

もし時間がたっぷりあって、ゆっくりじっくり考える時間があったら、落ちるところまで落ちてしまっていた気もして、ちょっと怖いです。忙しいって「心を亡くす」と書くから良くないとも聞きますが、逆に有難い時もあるものです。

父が亡くなった翌年に、ピリスという女流ピアニストのコンサートに行きました。

そこで聴いたのがこのシューベルトの即興曲です。

もともと好きな曲ではありましたが、それほど特別な思い入れがあるわけではなく…

なのにその時は、聴いた瞬間から涙がこぼれてきました。

演奏を聴きながらハンカチが手放せず、ずっと涙を流しながら聞いていたことを覚えています。

父のことを思い出したのか、何だったのかよく分かりませんが、心の奥に閉じ込めていた重たい何か、胸の奥に引っかかっていたささくれが、すーっと溶けていくようなそんな感覚でした。

昔習っていた先生がこんな風に仰っていました。
「ベートーヴェンは悲しみと闘う。シューベルトは悲しみに寄り添う」

本当にその通りだなぁとこの曲を聴いていたら感じます。

そんな思い出の曲に、今Mちゃんが取り組んでいます。

まだまだ、たどたどしい演奏ですが、それでもレッスンしていて、やはり美しい曲だなぁと思いますし、この曲を教えることができて、幸せだなぁとも思います。

Mちゃんにとって、今30代の若さで弾くシューベルトと、もっと年を取ってから弾くシューベルトは、また全然違うと思います。そう考えると、年を取るというのは、面白いことだなぁとも思います。

そんなわけで、今レッスンに通ってきているちびっ子ちゃん達にも、小さいうちから(分からないなりにも)多くの芸術作品に触れて育ってほしいと願っています。その経験が血肉となり、いつか自分自身を助ける日が来ると思うからです。

クラシック音楽は、大人になってから、「よし!今日からクラシックを聴くぞ!」と思っても、ちょっとしんどいかもしれません。やはりある程度の音楽的な知識や経験がある方が、より楽しめると思います。

「ピアノの練習いやー!ゲームの方が楽しい!!」
と言ってる子ども達。

どうか頑張ってほしい。

心からそう思い、応援しています。

では最後に、シューベルトの即興曲 op90-3を聴いてみて下さい。

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